……してやった、初めてヒロキに勝てた。

達成感でガッツポーズしたくなったけどそれどころじゃない。

私たちも注目されてるから早く移動しなきゃ。



「春臣くん、行きましょう」

「……好き」

「はい?」

「ごめん、思ったことが口に出た」



手を掴んで歩き出すと、春臣くんが呆然と呟く。

よかった、引かれたと思ったけど通常運転だ。

さすがに公衆の面前でビンタはちょっとやりすぎたと思ってる。

しかしビンタした直後のあの間抜け面は最高だった。



「風夏ちゃん、かっこよかった」

「いえ、今度会ったらぶん殴ってやるって決めてたので」



やりすぎたと思うのに、褒めてくれるから調子に乗っちゃう。

鼻息荒く拳を固めると、春臣くんは「スッキリした?」って笑いかけてくれる。

そうだよ、ビンタされても仕方ないくらいひどいこと言われてきたんだから。

むしろ今まで我慢してた私すごい。



「春臣くんは大丈夫ですか?」

「うん、風夏ちゃんの新しい一面が見られて新鮮な気分」



でも、春臣くんはリサに特に反撃してないからモヤモヤしてないかな。

そう思って質問したけど斜め上の回答が来た。

いや、私のことを聞いてるんじゃなくて……。



「すっかり吹っ切れてますね、よかった」



だけどいつも通りの爽やかな笑顔だったから、問題ないと思ってこの話をするのはやめた。

その後はいつも通り春臣くんとの楽しい日々を過ごした。