「あーでも、今も近くで見りゃブッ……!?」



湧き上がってきた怒りの衝動は右手に宿る。

そして煽るように顔を近づけてきたヒロキの頬を思いっきり引っぱいた。

私を守ろうとして間に入ろうとした春臣くんは思わず二度見。

ヒロキは衝撃によろめいて無様に尻もちをついた。

それにパァン、といい音がしたから通行人が何事かと立ち止まる。



「いい加減にして」

「……は?え?」

「呆れた、デリカシー無さすぎでしょ」



ヒロキは呆然とビンタされた頬を押さえている。

うわ、ひどいアホ面。私、なんでこんな人好きになったんだろ。

はぁー、とため息を着くとヒロキはビクッと肩をすくめる。

なんだ、反撃してくるかと思ったけど尻もち着いたまま動かないじゃん。

いつまでもあんたの言いなりだと思ったら大間違いだからね!



「二度と私の前に顔出さないで、このクズ!」



大きな声を上げると、ヒロキは通行人の注目の的になった。

リサは薄情にも、弟と距離をとって他人のフリをしている。

……うわー、さすがクズ姉弟。

ヒロキは何か言いたげだったけど、大通りで怒鳴られて恥ずかしかったらしくしっぽを巻いて逃げていった。