懐かしい街並みが目に入る頃には
空も少し晴れてきたのか

重い雲の色が薄くなった気がする


「ここ」


海岸沿いに止まった車から見えたのは
悟が開いたという可愛らしいカフェだった


促されるように車から降りると
店内へと足を踏み入れる


「お帰り〜」


「ただいま、杏樹」


「宙もお帰り〜」


「あぁ」


あの頃とは別人のような悟の女に
懐かしさと共に苦しい場面がフラッシュバックする


「にしても、汚〜い
イケメンが台無し〜ハハハ」


目の前に立ったまま俺を笑う女を見ながら

このまま恋の家へ行きたい衝動に駆られた


・・・まだ早えぇ


身の回りをキチンとしてから
正面切って迎えに行く

急加速する思いを少し封印することにした


「宙、待ってろよ」


「あぁ」


俺を迎えに来るために
臨時休業にした店をグルリと見回して

波打ち際が見える席へと足を向けた


一度だけ恋と泳ぎに来た海水浴場

あの頃は

『ずっと一緒ね』


そう言って笑う恋を
『当たり前だ』と抱きしめていられたのに


恋に許して貰えるなら

俺、なんでもする

もう一度好きになって貰えるなら

他になんも要らねぇ



だから・・・恋


もう少しだけ待ってろ



砂浜に打ち寄せる波を見ながら

過去と未来の狭間で
痛む胸と向き合っていた