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〔皆様、当機まもなく○○国際空港へ到着でございますーーーーーー〕




「チッ」


飛行機の窓越しに見えた8年振りの日本は鈍色に沈んで見えた

この空色を見ると

グッと握り潰されるように苦しくなる胸

こんな苦しい想いをさせるのは
たった一人

俺の心の中全部を支配する女だけ





・・・





タラップから降りると
足下から蒸し暑さが駆け上がってきた


湿った空気を大きく吸い込むと愛しい顔が頭を過る


「待ってろよ」


誰に聞かせるつもりもない呟きを
窓の外に広がる空へと投げた





この8年間で薄汚れたトランクが回ってくるのを待ってゲートを潜ると


「よぉ」


懐かしい顔が出迎えてくれた


「8、年振りか」


「あぁ」


「つーか、お前イエティだな」


そう言ってゲラゲラと笑い始めた悟

車の窓に映った俺は

肩下まで伸びたボサボサの髪を
革紐で縛っただけのだらし無い頭

髭は伸び放題で汚らしい

確かに雪男の様に思えた


「恋ちゃんに会いにいくまでには
スッキリさせとけよ」


目尻の涙を拭いながら恋の名前を出した悟に少し驚きながら


「あぁ」
と短い返事をした


「それだけ自分のことが疎かなら
現地妻も居なかったんだろ」


・・・そういうことか


「そんな奴いねぇ」


「本当は6年で帰る予定を
2年伸ばしてタイまで行ったんだ
もしかしたら恋ちゃん結婚したかもしれねぇぞ?」


「チッ」


そう言われても仕方ない
無我夢中で過ぎた6年で
俺の銀細工への想いは達成した

それを2年伸ばしたのは
偶々買付けに来ていたタイのブローカーと出会ったからで

繊維状にした銀を編み込んでいく技術を
どうしても身につけたかった


「どうする?このまま爺さんの家か?
それともうちの店で飯食ってく?」


「店」


「了解」


8年振りに会った親友は
離れた期間を一瞬で埋めるように笑った