・・・・・・
・・・




「せんぱーい」


庸一郎さんの工房から帰ると
玄関前で蹲っていた絢音は

私を見ると泣きだしそうな顔をして立ち上がった


「どうしたの?」


「ウェーーーン」


子供みたいに抱きついてきた絢音は
そのまま声を上げて泣き出した


「ちょ、ど、うしたのっ」


スッカリ冷え切った身体を支えながら
鍵を開けて中へ入った

暖房のスイッチを入れて
お湯を沸かすと

絢音の座るソファの隣に腰掛けた


「んで、どうしたの?」


「せんぱーい」


ティッシュの箱を抱えて
潤む瞳をこちらに向けると


「仕事帰りに・・・っ」


グズグズと鼻水を啜りながら
家に来た理由を話し始めた


「ユメがカリーナに居て
“麻人と待ち合わせなの”って言うから
私、この前のことを思い出して
喧嘩吹っかけちゃいましたぁぁ」


言いながらまた泣き始めた

・・・可愛い

私のために感情を露わにしてくれる後輩を持って幸せだと思った


「絢音、絢音が私のことを想ってくれるのは嬉しいよ
でもね、これは麻人と私の問題
それにもう、麻人とは終わったの
だから・・・
絢音が腹を立てることも
こんなに泣くこともしなくて良いの」


「だってぇ、せんぱいっ
ユメ、勝ち誇ったような顔してて
ほんとムカつくんですっ
顔だって先輩の方が綺麗なのにっ
村越って馬鹿でしょう?」


「勝ち誇った顔させてあげてよ
だって、私が負けたんだもん」


「そんなぁぁ」


「でも、ありがとう
絢音が喧嘩吹っかけてくれたなら
私の気持ちもスッキリするよ」


「ムゥゥ」


唇を尖らせながら怒っている
納得いかない風の絢音の背中を撫でて

ありがとうと繰り返した