「離してよっ」


「恋?どうした」


掴まれた腕を振り解こうとするのに
ビクともしなくて苛立った


「どうした?本気で言ってんの?
あの人って8年前の浮気相手よね?」


「あ、あぁ、だから・・・」


「なんなの?どういうつもり?
私の気持ちを逆撫でしたいの?」



この店の店員と
宙が私に背を向けたあの日

私は土砂降りの雨に打たれて心を壊した

たとえそれが偽物だったとしても

一番会いたくない人に違いはなかった


「アンタはフェイクのつもりでも
私にとってのこの8年間は
辛くて苦しい8年間だった
あの人と消えた雨の日に
心がバラバラに折れたのっ
あれから雨の日は薬を手放せないし
嫌いな日になってしまった
アンタはそれを幼さの罪だと言った
でも・・・
許せることと許せないことがあるの
此処へ連れて来たのはなに?
フェイクだって謝りたかった?
誤解を解いて仲直りでもすれば
アンタの罪が軽くなるとでも?」


一気に吐き出すと涙が溢れた


「俺が全部悪い」


酷く傷ついた宙の顔も
今は見たくなくて


「帰る、サヨナラ」


歩いて帰ろうと背中を向けた


「・・・ちょ、待て」


「私のことは放っておいて」


「無理だ、放っておけねぇ」


ジワリと近づいた宙は
腕の中に閉じ込めた


「ごめん」


「無理」


「俺が全部悪い」


「・・・」


「確かに此処へ来たのは
あの日のことを話したかった
でも・・・それで許して欲しいとか
安易に考えた訳じゃねぇ
あんなことしか思い浮かばなかった
馬鹿な俺を全部知って欲しかっただけ
此処はあの頃のツレの悟がやってる
あの女は今は悟の嫁になってる
俺が悟に頼んで女を借りた
だから・・・悟にも女にも
あの時背負わせた罪を詫びたかったんだ」