「・・・ここ」
顔を上げて見えたのは海水浴場近くのアメリカンスタイルの可愛らしい店だった
雑誌で見た事はあったけれど
実際足を運んだことはなかった
「知り合いの店」
そう言ってサッと手を繋いだ宙
「・・・なんで?」
その手を見ながらポツリと出た声に
「繋ぎたかった」
こちらを見ずに返事をした宙の耳は赤かった
なんだか宙のペースに巻き込まれている
でも
何故だかちっとも嫌じゃない
そんな私の変化に気付いているのか
クスッと笑った宙は店の扉を引いた
「ワァ」
外観と同じように木を多く使った店内は
緑も多く配置されていて
一瞬で引き込まれた
「いらっしゃ、宙じゃーん」
パタパタと近づいてきた女性を見て固まった
・・・この人
さっきまでの高揚した気分を一瞬で消し去った店員は
雨の日に宙と背を向けた相手だった
「2人〜?」
「あぁ」
「適当に座って〜」
親しげなやり取りをどこか遠くに聞きながら
胸にどす黒い思いが広がるのを感じて
それを振り切るように
繋がれたままの宙の手を外した
「どうした」
「・・・」
「なんで外した」
そんなこと言いたくない
宙の視線から逃れるように顔を背けた
「とりあえず座ろうぜ」
海の見える奥の席を指差した宙に
返事もせずに踵を返すと
入ったばかりの店から飛び出した
「恋っ」
直ぐに追いかけてきた宙は
「待てよ」
酷い顔をしているであろう私の腕を掴んだ



