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「飯、食いに行こうぜ」




小波が“デート”を思い出して帰った後で

出かけることにした

私が着替えてメイクをしている間に
宙はカップを洗ってくれていた


・・・そういえば


宙のアパートに遊びに行っても
宙は何でもサッとやってしまって

私は結局お客さんのままだった

狭いけど居心地の良かったアパート
言われてみれば宙のお母さんに会ったことも気配を感じたことも無かった

ずっと一人だったという宙

あの頃を思って少し胸が痛んだ




カウンターに置いてある私の鍵の隣に並ぶキーケースと携帯と財布

そのどれもが同じ革で同じシルバーのデザイン


素敵だな、と素直に思った
洗練された細工のひとつひとつが

宙の歩んできた8年間で

その8年間の努力は身を結ぼうとしている



「・・・ん、恋っ」


肩に手を置かれてハッとした



「・・・え?」



「どうした?調子悪いか?」



首を傾けて顔を覗き込んだ宙の瞳が揺れている


「あ、いや、ごめん
これ・・・素敵だなって」


見入っていた細工に触れると少しホッとした顔をした宙は


「俺、必死だった
早く一人前にならなきゃって
そればっかりで
恋に会いたくて・・・会いたくて
離れたのは俺なのに
酷いことしたな・・・ごめん」



顔をクシャリと歪ませた


「責めてる訳じゃないよ?
カリーナの電話をパンクさせる程
一瞬で人気を得たんだもん
自信持って良いと思うよ?」


慰めではなくて本心

どんなに努力をしても身を結ばないこともある

単身で言葉も分からないメキシコへ渡ってずっと努力をしてきた8年間は

もしかすると私が過ごしてきたより
孤独なことだったかもしれない


でも・・・
それを乗り越えた成果がここにある


「ありがとな」


「うん」


宙の頑張りに頬が緩んだまま
隣を見上げると


今にも溢れおちそうな涙いっぱいの瞳が揺れていた