ピンポーン




突然響いた玄関チャイムに驚く

立ち上がってカウンター横のモニターを見ると



「・・・麻人」



ポツリと出した声を拾った宙



「誰?」



・・・どうしよう
ものすごく気不味い


迷う私の気持ちを急かすように
もう一度チャイムが鳴った


それに反応したのは宙


「あ、宙、待って」


私より先に玄関へ向かった宙は
少し不機嫌に扉を開けた



「恋さん、え?、あ、あなたは」



私の部屋から宙が出てきたことに驚いた麻人は目を見開いたまま固まっている



「どうしたの?」



宙の肩越しに声をかける


「いや、あの・・・
恋さん様子が変だったから」



私のことを気にかけてくれたなんて
申し訳ないことをしたと口を開こうとしたけれど



「恋の様子がおかしいからって
関係ないだろ?」



先に宙が喧嘩を売った



「え?、あ、あの・・・」



突然のことに更に驚く麻人に
謝ろうと思ったのに



「恋は平気だ」



それだけ言うと
強引に玄関扉を閉めて鍵をかけた



「恋、あいつか?」



振り返った宙の声は低くて
瞳は疑うように揺れている



誤魔化せない雰囲気に
諦めて頷いた



でも・・・
もう何も言えなかった頃の私じゃない




「今の態度っておかしくない?」



「なんで」



「だって、ここは私の部屋で
宙の家じゃない・・・
確かに宙の8年前の言い訳は聞いた
でも、これからどうするかは
直ぐには決められない!」



「別れてないって言っただろ」



「それは宙が思ってただけ
私は8年も前に気持ちを捨てたの
それに・・・」


「それに?」


「もう一度会うことが出来たら
“サヨナラ”を言うことだけを
ずっと、ずっと思ってきたから」




勢いに任せて一気に吐き出して

裸足のまま玄関扉を開けた


「帰って」


これ以上話すこともないと
宙を遮断した