「・・・中、入れてくんねぇの?」



「なんで」



「なんでって・・・話、するだろ」



玄関で大人しく抱きしめられた後
混乱したまま宙を招き入れた



「お茶・・・飲む?」



「あぁ」



目の前に宙が居ることも

この部屋に宙が居ることも

違和感しか感じなくて


ソファの真ん中に座る宙の目の前に
香りの良い紅茶を置くと


距離を取るように
食卓テーブルの椅子に腰掛けた



「遠くねぇ?」



いや・・・混乱してるから
これくらいがちょうど良い


無視してカップに口をつけると


グルリとリビングを見た宙は


「センス良いな」


と笑った



「ありがと」



視線を宙に向けることなく呟いたのは
少しネクタイを緩めた宙に
とてつもなくドキドキしている所為


あんなに泣いた筈なのに
“別れてねぇ”の一言を聞いただけで


簡単に絆される自分も嫌だけど


抗えないくらい


高鳴る鼓動は


宙への気持ちへと続いているはず



でも・・・



このまま流されて良い筈も無く



「私は別れたと思ってた」



今更な話を戻した



「私を無視し続けて
パンダと浮気したでしょ?」



それに



「駅前広場のツリーの前で
私に見せつけるようにキスした」


いや・・・キスしたかどうかは見ていないけど
たぶん?したはず


あの頃言いたくて言えなかった思いが
スラスラと口を割って出てくる



「あれも見せかけで
一ミリも触れちゃいねぇ」



宙を想って泣いたあの頃の私が

幾重にも包んで封印した想いを

少しずつ引き出すように言葉を並べた



「でも、聞いただろ?
言いたいことあるんじゃねぇかって
俺、お前に聞いただろ?」



確かに聞かれた

でも・・・

答える前にパンダが来て
私に背を向けたじゃないか・・・




宙の背中を見つめるしか出来なかった私



携帯を握りしめて離せない私



宙に会いたくて泣いた私




「もう終わったんだよ」




宙が全てだったあの頃の私に

言い聞かせるように締め括ると

視線を宙へと戻した