「恋、会いたかった」







・・・・・・狡い



あんなに冷たく突き放した癖に
今になって“会いたい”と私を惑わせる



「離して」



「嫌」



「離して」



「嫌」




幾ら踠いたところでビクともしない宙に
諦めて力を抜いた


それに合わせるように離された上半身に
ウッカリ宙を見上げてしまった




「・・・っ」




強い視線が交わった瞬間
首を傾けた宙の顔が近付いた


強引に合わせられた唇に
戸惑う暇もないまま離れた宙は




「恋」




熱っぽい視線をもう一度絡ませた




「な、にするのよ」



「なにって、キスだろ」



「は?」



「8年も会いたくて会えなかった
恋人を目の前にして
我慢できないだろ、普通」



「・・・は?恋人?
アンタ馬鹿にしてるの?」




変わらず片手が腰に回されていて
密着したままのやり取りが冷静さを欠く



「俺ら別れてねぇじゃん」



「・・・は?」



一体宙の頭の中はどうなっているのか



「ちょっと離れて!」



私ばかりがテンパって
目の前の宙は全く動じていないことにも腹が立ってきた



「8年も前に別れたでしょ!」



「い〜や?
俺は別れるなんて言った覚えねぇぞ?
恋は俺に別れるっつったのか?」



「・・・・・・え」




そう言われてみると
別れ話なんてしていないし
宙から言われた訳でもない



「・・・でもっ」


それは屁理屈だ


「ちょっと黙れ」



そう言ってもう一度抱きしめられた

壊れものを扱うみたいに大事に包まれた身体は
さっきまでの勢いを失くしていて心地良いとさえ思ってしまう



「ずっとこうしたいと思ってた
恋、ずっと、会いたかった」



酷く震える宙の声に
止まっていたはずの涙が溢れた