マンションの部屋に駆け込むと
そのまま足下から崩れ落ちた


「・・・ゔぅ」


乱れた呼吸が肩を大きくゆらす


このままだと子供みたいに声を上げて泣きそうで
手の甲を唇へと当てた・・・



ガチャ



背後の玄関扉が開く音がして
全身が大きく震える


「ヒッ」


パニックを起こしそうになる私に
頭上から降ったのは



「恋、俺だ」



さっき振り切ったと思った宙の声だった



咄嗟に身体を捩って見上げると


「驚かせて悪りぃ」
と罰の悪そうな顔を見せた



「ほら」



蹲る私に手を添えて立ち上がらせた宙


途端に包まれるのはあの頃と変わらないグリーンノートの香り




「ちょ、離してっ
・・・・なに?つけてきたの?」



ヒールを脱ぎ捨てながら
距離を取ると



「だって、お前逃げるから」



「・・・は?」



意味不明の宙から視線を動かせない



「何度も声かけたぞ?」



「・・・っ」



泣いていたから気がつかなかった




「恋」




伸ばされた手が頬の涙を拭う



「俺はお前を泣かせてばかりだな」



頬から伝わる宙の熱と
顔を歪めて私を見る宙の声が
“離れろ”という警笛の邪魔をする



だって・・・



あの頃の私は
宙の前では一度も泣いたことがない


正確に言えば
沢山泣いたけれど


そのどれもが宙の前じゃなかった





「恋」



「・・・なに」



「会いたかった」




そう言うと同時に抱き寄せられた身体は
宙の身体にスッポリと収まった