逃げるように会場を抜け出すと
クロークでコートを受け取ってホテルを出た


自動ドアを抜けると


ライトアップされた大きなクリスマスツリーが眼に飛び込んできた



ドクン



これを見ると痛む胸


それを視界から外すように
マンションへ向けて身体ごと背けた目の前に


宙が立っていた




「・・・・・・っ」




不意打ちに脚が棒のように動かなくなる


ドクドクと強く打つ鼓動


絡まる視線が怖くて俯いてギュッと眼を閉じた




「恋」




懐かしい声に鼻の奥がツンとする



・・・・・・情けない



8年前からちっとも成長していない


宙を目の前にすると

言いたいことが口から出ない



・・・・・・帰りたい



分かりやすい程に動揺した状態で


あの頃と同じように
向き合うことをやめて宙から顔を背けると


呼びかけを無視して通り過ぎようとした



「恋」



もう一度名前を呼ばれたと同時に腕を掴まれた




「・・・・・・っ」




「話がある」




「・・・私は無い」




「冷た過ぎねぇ?」




「そうは思えない」




私の腕を掴んだままの宙から
強い視線を感じるけれど


もう視線を合わせて平静で居られる自信がない


掴まれた腕から伝わる熱も
今の私には辛い思い出が蘇るようで


揺れる瞳に力を入れて
掴まれた腕を振り払うと



「サヨナラ」



痛いほど刺さる宙の視線を無視した


前を向いてないと崩れ落ちそうな身体と
瞬きするごとに頬を流れる涙で


すれ違う人が一様に驚いた顔をするけれど


立ち止まったら宙に捕われそうで
必死で脚を動かした