隣に椅子を運んできた庸一郎さんは


「アレは儂の孫でな」


更に爆弾を落とした


「え?」


急なことに頭が追いつかない


宙が庸一郎さんの孫?


「娘の子供だから苗字は違うが
正真正銘儂の孫じゃ」


驚きすぎて頷くことしかできない


そんな私に向けて
次に落とされた爆弾は



「カリーナと取引を始めた
銀細工職人じゃ」




銀細工職人・・・?

銀、銀・・・えっ?



「あのシルバーアクセサリーの?」


「なんか大人気らしいな」


「嘘」



最早パニック寸前の頭は
新しい情報を処理出来ないようで

庸一郎さんの話が飲み込めない



「アレは今年の夏に帰って来たばかり」


「帰って来た?」


「高校出るとすぐメキシコに渡って
ここ二年はタイに居たらしい」


「メキシコ、タイ・・・」



高校を出て今年の春まで海外で銀細工を学んでいたという宙

8年前・・・
突然金髪を黒染めした宙が決めていたのは

これのことだった?


あのシルバーアクセサリーを
生み出す世界


でも・・・


・・・教えて欲しかった


あの頃の自分にはまだなかった未来予想

宙の夢は手放しで応援してあげられたはず


何も教えてはもらえなかった自分が


酷く情けない女に思えて


ドキドキした気持ちが重く変化する


・・・帰りたい

一度頭を過ぎると膨れ上がるそれから
逃げるように庸一郎さんを見た



「庸一郎さん・・・
今日は取り乱してごめんなさい
また本社にお越しの際は
是非お茶でも・・・・・・」



丁寧に挨拶をすると
手に持ったままのビロードの箱を戻した


いつもは貰っていた箱を
無意識のうちに返すほどの動揺を
気付かれずに済んだと

この時は安易に考えた


「失礼します」


こみ上げる感情を悟られないように
立ち上がると笑顔を作った