雨の日はそばにいて抱きしめて



こちらを真っ直ぐ見上げる強い視線に吐き出そうとした息をまた飲み込んだ


ドクドクと強く心臓が音を立て
絡まる視線に感情が乱れて泣きそうになる



「・・・・・・っ」



目の前の宙も私を見てこれでもかという位に目を見開いているから


私が此処に居るとは知らなかったんだろう




・・・なんで




呼吸も乱れて立っているのがやっと


そんな私の変化に気づいたのか



「緊張してきたかな?」



近藤さんが“大丈夫?”とマイクを外して聞いてくれるけれど

上手く声も出せない


バッグを強く握った手は小刻みに震えていて

それを治める術も分からない


少しずつおかしな雰囲気にざわつき始めた周りを誤魔化すように



「ありがとう」



公開プロポーズの返事を貰ったかのように
ビロードの箱を私の手に持たせた庸一郎さんは

ニッコリ笑うと



「ちょっと抜けよう」



注目の中心から手を引いて連れ出してくれた


ステージ裏にあるパーテーションに囲まれたスペースに入り


椅子に座ると少しずつ乱れた呼吸が落ち着いてくる



「恋ちゃん、ごめんな」



そう言って謝る庸一郎さんは
今年で最後にしようと思っていた
公開プロポーズを

締め括る最大の演出で
もう一人恋敵を立てることにしたと話してくれた




「もしかして知り合いじゃったか?」



「・・・・・・はい」



「あの様子から見ると
アレは恋ちゃんを傷付けたことが
ありそうじゃな」



「・・・・・・」



否定も肯定もしない私に



「この通り、申し訳ない」



理由も聞いていないのに
深く頭を下げた庸一郎さん



「大丈夫ですから
頭を上げて下さい」



「嫌な思いをさせてしまったな」



眉尻を下げた庸一郎さんに
座ったまま頭を下げて



「大丈夫です」と
精一杯笑って見せた