雨の日はそばにいて抱きしめて





「「「「キャーーーー」」」」




参加者から歓声が上がり
今年も司会を引き受けている社長秘書の近藤さんがそれを煽る



「せんぱい!頑張ってきて下さい」
 



敬礼をする絢音に渋い顔を見せると
視線の集まる中心へ脚を向けた


ステージへ近づくごとに道が開ける
ここはモーゼの海割りか・・・


微妙なツッコミを脳内で入れると
ステージ上で待つ庸一郎さんの正面に立った



「おーっと、ハニーちゃんの登場です」



ハイテンションの近藤さんに
冷たい視線を送るとエヘヘとベタな笑いで逃げた


いつもは社長の隣でクールを気取っている近藤さん


司会者になっている今が本来の彼なのかもしれない


だって・・・眼がキラキラしてるもん


近藤さんの観察をしている間に
目の前の庸一郎さんは既に跪いていて


慌てて視線を落とした


マイクを口元に当てられた庸一郎さんは
私を見上げて一度ニッコリ笑うと



「世界の誰より幸せにするよ」



そう言ってビロードの箱を差し出した


“幸せにして下さい”
マイクが私に向けられたらそう言うつもりの台詞は



「ちょっと待ったーーー!」



大きな声に遮られた



・・・・・・は?



悲鳴か歓声か判別つかないような声が上がり
人垣の中から長身の男性が現れて
庸一郎さんの隣に跪いた



「・・・・・・・・・っ」



その男性が少しずつ顔を上げ
視線が交わった瞬間
肌が粟立つのと同時に息を飲んだ


少し長めの黒髪はゆるく後方へと流されていて

端正な顔はあの頃より目元が優しくなっている

何故彼が此処に居るんだろう

いくら考えても線が繋がらない目の前の彼は


8年前に別れた宙だった