「せんぱい!」


すぐ後ろで絢音の声がして
大袈裟な位にビクついた


「何回も声をかけましたよっ」


語尾が伸びない絢音に


「ごめーん」


間延びさせて謝ってみた


「それ素敵ですよね〜
これに入ってきたんですよ〜」


透明なプラスチックの鍵付きケースを指差した


「へぇ」



「それに!」と小声になった絢音は
撮影室の隅に立ったままの小松課長をチラ見した後で


「展示する時は
更に鍵付きの固定ショーケースに
入れてって念押しされたらしいです」


「なにそれ、どんだけ高級?」


「ですよね〜」



この撮影室に営業一課の課長が居る理由は
この展示のペアリングに『触れないように』との作家さんの強い希望らしい


お陰でブツ撮りなのに
スタンド以外触れないという難しい撮影だった


余程大切な物らしいペアリングを
いつもより余分にカメラに収めると


プラケースに戻して絢音が小松課長へと渡した

追加商品の店頭引き渡しまで
カリーナでお披露目する

作家コーナーが終わる今月末まで
展示したいところだけれど
作者が渋ったらしい


話題に上るようにWEBデザインも考えようと考えながら歩いていた目の前に


麻人が現れた


相変わらず背が高くてガッチリ
それでいて犬みたいな雰囲気に懐かしさまで覚える

もう頭も撫でられない関係



「おはよう」


「・・・おはようございます」



うん、ちゃんと笑えてる

少しの気まずさは許容範囲よね?


聞き分けの良い年上女に感謝して欲しいと頭の中で笑って

麻人の脇を通り過ぎた