「・・・・・・っ」



週明け、撮影室にスタンバイ済みらしいブツ撮りをする為に

カメラを持って入った私は
“それ”に一瞬で心を奪われた


リングディスプレイ用のシルクの筒状スタンドに差し込まれたペアリング


ゴツゴツした幾何学模様の幅太リングは
前回ブツ撮りした物より少し粗削りではあるけれど


中央に配置された丸い石がそれを感じさせない位に存在感を示していた



「・・・ラピスラズリ」



真ん中にあるその深い群青色に魅かれる



「・・・・・・素敵」



無意識のうちに左耳のピアスに触れていた




* * *




あれは・・・


宙が髪を黒染めする少し前

ずっと一緒に居られると信じて疑わなかった頃


自転車に二人乗りして夜の海を見に行った時に聞いた夜空の向こうの話


口数の少ない宙がその日はすごくお喋りで

楽しかったことを思い出す


「俺の名前って“宙”じゃん?
だからって訳じゃないんだけど
昔から青が好きなんだよな
それも深い青“群青色”」


そして・・・

群青色の由来になるラピスラズリの話

お決まりのように私もその色が好きになり

宙と離れた後も
変わらずその色に囚われ続けている



春に主任の役を貰った日
自分へのご褒美に買ったピアスは
シンプルな石だけの物

迷うことなくラピスラズリを選んだ私は
やっぱり過去に囚われたままなのかもしれないけれど


目の前のペアリングを見ながら


これをはめるカップルが幸せであるように願った