「すみません」


頭を下げて固まった麻人


謝ってもらいたい訳じゃない


「謝らないで、私が悪いことしてるみたいじゃない」


「あ、そんなつもりじゃ・・・」


じゃあどんなつもりだろうと

続けようとした口を強制的に閉じたのは
麻人が今にも泣き出しそうな顔をしていたから


「アイツ・・・死にたいって」


「・・・」


「振り向いてくれないなら
死んでやるって・・・」


眼を真っ赤にして
悲しい顔をした麻人

彼氏でもない男に縋り付いて
死んでやるなんて・・・最低な女

その言葉を信じて
寄り添っている麻人は

元カノに囚われ過ぎている

・・・共依存・・・


でも・・・


「心配で付いててあげたいのよね?」


「・・・はい」


私より元カノを優先したんだもん
答えは元より決まっていたはず


「麻人、ありがとうね
二ヶ月だったけど
優しくしてもらったから」


これは本心
いつも私を気づかってくれた麻人


「・・・恋、さん・・・
これだけは信じてください
僕、今でも恋さんのことが大好きです
でも・・・アイツを切れなくて」


好きだけじゃどうにもならないこともある


「理由はどうであれ戻るなら
全力で守ってあげてね」


「・・・はい」


麻人の優しさにつけ込んでる元カノのことをどうこういうつもりはないけれど

“好き”の気持ちが素直になれないうちに歪になっただけのこと


それでも・・・
その想いに気づいた二人には

誰かを多少なりとも傷付けた上に成り立ったことを忘れて欲しくない


「今から、ただの同僚だから」


「・・・・・・はい」


「サヨナラ」



運ばれてきたコーヒーに口を付けることもないまま



ポロポロと涙を溢す麻人を置き去りにして店を出た