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心地良いオルゴール音楽が鳴り始めると始業の合図
今日は週末だから全体朝礼も各課のミーティングも無し
来月企画のアクセサリーの撮影とWEB加工が終われば定時で上がれるかもしれない
久しぶりに日付けが変わる前に寝ることができるかもなんて
鎮痛剤を飲んだことを棚上げして
一眼レフを持って出て行った絢音の後を追い掛けた
・・・・・・
「せんぱーい、企画書入ってます?」
アクセサリー小物の入った段ボールの中を覗く私に
ファインダーを覗きシャッター音を響かせて撮影している絢音の声だけが届いた
「ん・・・?入って・・・ないかも」
営業からの企画書は
作家情報から商品説明、売り場の展開図までが纏められたもの
それを基にショップ担当がPOPを作るからとても重要なモノ
「貰ってくるね」
「は〜い、すみません」
集中している絢音を視界に入れながら
三坪程の撮影室を出た
「まだ雨かな」
まだ微かに鈍痛の残る頭を動かさないように営業ブースまで歩くと
こちらに気付いたのか
一番手前にある営業一課のデスクから
村越麻人《むらこしあさと》が立ち上がった
一課の一番若手の麻人は
絢音と同期の24歳
学生の頃は野球部だったらしく
礼儀正しい硬派タイプ
少し垂れ目の甘いマスクはイケメンに属するらしい
そして・・・私のカレ
「今、ブツ撮りしてるんだけど
来月の企画書入って無かったよ」
近付いて少し微笑むと
「あ、すみませーん」
デスクの上にあるカゴの中を勢いよく漁って
目当ての企画書を取り出すと差し出してきた
「ありがと」
「はい」
身長は180センチ程あるだろうか
大きいけれどどうしても私には“イヌ”にしか見えない
ブンブン振る尻尾が見えるようで
少し背伸びをして頭を撫でた
もちろん周りに誰もいないことは確認済みで
「・・・・・・っっ!」
途端に真っ赤になる麻人の顔を確認してペロッと舌を出すと
「じゃあね」
クスッと笑って踵を返した



