雨の日はそばにいて抱きしめて



「待った?」


「いえ、僕直帰だったから」


穏やかに笑った麻人

いつもの待ち合わせかと錯覚するようなやり取りをして並んで歩き出す

さり気なく車道側を歩いてくれる麻人

いつもと違うのは
手を繋いでないこと・・・

麻人側の右手にハンドバッグを持って予防線を張った私

そんな小細工しなくても
もしかしたら手なんか繋がないかもしれないのに

やっぱり私の中での拒否反応が見える

逃げ出したい気持ちを封じ込めて

少しずつ重くなる脚を動かした


「恋さん」


頭上から降った麻人の声に立ち止まると
レトロな喫茶店の前で足を止めていた


「あ、ごめん」


扉を開けて待つ麻人の脇を抜けて
店内へ入るとコーヒーの良い匂いがした


窓際の個室に通されて
向き合って座るとコーヒーだけを注文した


「恋さん、ごめんなさい」


テーブルにオデコが打つかる寸前まで頭を下げた麻人


その“ごめんなさい”はどっちの謝罪だろう


「もしかして私が浮気相手だった?」


声に反応して勢いよく頭を上げた麻人は


「違いますっ」


泣きそうな顔で否定した


「だったら何?」


躊躇いもなくそう口にしてしまうのは

“ユメが好きだよ”

そう言った麻人の真意を聞きたいからだろう


「アイツは高校の時に付き合ってた
彼女でした・・・。
過去形なんです、今も」


は?じゃあなんで?
グルグル回る頭の中を

止める術も分からないまま

ジッと麻人を見つめた