「恋さん」



いつもより早く会社に着いた私を待っていたのは

真っ赤な眼をした麻人だった


一度着替えに帰った絢音も居なくて
話せると思ったのだろうか・・・

そんな簡単な話じゃないはず


朝からの重い雰囲気に


「話は仕事が済んでからで良い?」


「はい」


深く頭を下げて営業フロアに歩いて行く
麻人の背中を見送りながら

一つため息をついた


麻人を前にして一つも感情が揺れなかった


赤い眼の理由は・・・
今ひとつ理解できない

だって・・・

傷ついたのは私

泣きたいのも私

きっと・・・そう


ワンフロアの会社だから
嫌でも視線に入ることも

気分を下げる要因には違いなくて


もう二度と社内恋愛はしないと心に固く誓った




・・・・・・
・・・



♪〜♪〜♪



終業のメロディが流れると
肩がビクッと揺れた


「せんぱい、大丈夫ですか?」


気を使ったのか背中を丸めて小声で聞いてきた絢音


「大丈夫よ、子供じゃないんだし」


「何かあったら呼んで下さいね」


「嫌よ」


絢音を呼んだら余計に話がややこしくなりそうで怖い


「ヤケ酒なら付き合いますからね」


「ありがと」


絢音なりの優しさに少し肩の力が抜けたところで


「お先に失礼します」


WEB担当チームに挨拶するとフロアを出た


麻人との待ち合わせはレガーメ裏の通用口


・・・今日は吹き抜けを通れないな


残念な気持ちを飲み込み


満員のエレベーターを抜けると
外の壁に凭れる麻人が目に入った