麻人と付き合って二ヶ月余り
穏やかな麻人と一緒に居るだけで
いつも笑顔でいられた
陽だまりのような麻人とは
喧嘩になんてならかった
年下だけどいつもエスコートしてくれて
大きな身体は守って貰えているという
安心感があった
キラキラして眩しくて
私には勿体ないくらいに素敵な彼氏
告白されて付き合い始めたけれど
少しずつちゃんと麻人を好きになっていた
・・・・・・それなのに
全く気づけなかった
頭に浮かぶ[裏切り]の文字に
どうすれば良いのか思考が追いつかない
電話を終えた麻人が自販機コーナーから出てくれば
ここで鉢合わせしてしまう
不可抗力だけど
立ち聞きしていたかのような状況に
向き合うことを恐れた私は
性懲りも無く・・・また
逃げなきゃ・・・
そう・・・思ってしまった
でも
鉛を入れられたかのように
貼りついて動かない脚は
それを望んではいないらしく
「・・・・・・恋、さん」
携帯電話を手にしたまま
私を見て固まった麻人を見て
・・・・・・フゥ
漸く息が吐き出せた気がした
重い空気が流れる中
真っ直ぐ麻人を見た
携帯を握りしめた手は力の入れすぎで白くなっていて
少し額に汗も浮かんでいる
初めて見る麻人の泣きそうな顔は
私への罪悪感なんだろうか
それとも・・・
いや・・・
・・・考えようとしてやめた
今の電話を知られたことで
歪む顔は理由を聞かずとも決まっている
そう思うだけで頭の中が一瞬で冷静さを取り戻した
この場で話す内容ではないことを
社会人として弁えてはいるつもりだけれど
どうしても“今”告げたい
「麻人・・・別れよう」
全部素っ飛ばして結論だけが声になった
「・・・・・・嫌、です」
「サヨナラ」
ヒールに負けないように背筋を伸ばすと
やっと動いてくれた脚に力を入れた



