勿論、本気ではない
余興としてやってのけるから
周りも毎年のイベントとして捉えている


新入社員で参加したパーティーで
ウッカリそれを間に受けて


「け、結婚は出来ませんっ」


会場を笑いの渦に包んだ私

それ以来続いているそれは

毎年サプライズもあって
社員達は楽しみにしている程

なんで私だけが毎年毎年
公開辱めを受けなきゃないんないのか?

お爺ちゃん社長
木村庸一郎《きむらよういちろう》さんが良い人過ぎて
断るタイミングを忘れてしまったから・・・だ


良い人ってたちが悪い
だって・・・


・・・断れる訳がない


手を繋ぐ以外触れることも
セクハラ発言だって一切無し


素敵で紳士な庸一郎さん


それに


雨の日に思い出す痛みの彼に
雰囲気が似ている

私の断れない一番の原因は

本当はそれかもしれない



「ハァ」



もう一度ため息を溢して
今年も公開辱めを受ける為の
可愛いドレスを用意する決意をした


「先輩が結婚したら
私がその役貰いますからね」


得意げな顔をする絢音に


それなら結婚しなくても今年からその役あげるよ!なんて言えなかった


それは・・・

麻人との結婚が決まってるとか
そんな話が浮上してるとか

そんなことではなくて





胸の中にずっと燻り続ける想い


自己完結させたけれど
決定的な言葉が聞きたい


未だに私を追い詰める原因から


先へ進む為の術を



[サヨナラ]



お互いに口にしなかった別れの言葉を


もう二度会うことがない今も
全くゼロに近いそれを


待っている気がするから