「どうりで」


目が合っただけなのに
休ませてくれた母は

この顔の理由に気付いてくれていたのかもしれない


寒いのを堪えて冷たい水で顔を洗うと
頬が引き締まったような気がした


クリスマスを目前に控えた
終業式の今日

学校をズル休みした私は

誰もいないこの家で

宙との思い出と想いを
全て封印することにした


幾重にも包んだ気持ちが
漏れ出さないように

心の深い部分へと落とす

唯一の思い出の携帯も
もう二度と復活することはない

初めて会ったあの日の桜も
宙とのツーショットも

一緒の想い出も


全て全て深い闇に落として蓋をして

忘れることにした
















浮気者の宙


軽薄な宙


冷たい宙


少し不良の宙




バイバイ















七海の懐かしい字を見た所為で


あの頃の痛みを想い出した


心の深い部分へと落として蓋をしたはずの想いが


今でも鈍色の空を見るだけで
変調として私を追い詰める

宙を想って心が壊れた雨の日が
あれから私を責め続けるよう


どうしてちゃんと向き合わなかったのか
どうして文句の一つも言わなかったのか


現実から逃げることを選んだ私は
誰よりも狡かったのかもしれない


その所為でずっと一人を続けてきた





それでもよかったのに


恋愛感情を思い出すようにと

周りは気を使って

色々企画を考えては連れ出してくれたけれど

彼氏が出来ることは無かった

いや・・・

誰かを好きになることに酷く臆病になって
できるだけ避けていたのは私自身なのかもしれない


でも・・・


絢音を通して知り合った
二歳年下の後輩麻人は
何故か気付けばいつも側に居た

麻人と居るとなんだか楽しくて

気付けばいつも大きな口で笑っていた


麻人と居るとその間だけは私を闇から救ってくれる気がして


犬みたいな後輩としか思ってなかったのに


「付き合って下さい」



“待て”の姿勢で
耳と尻尾を振って返事を待つ麻人に




「・・・・・・うん」




素直に応えたんだった




付き合い始めて二ヶ月


雨の日の変調のことは

麻人には伝えていない


だから・・・


「既読無視は不味いかな」


そう思いながらも
携帯に触れることなくベッドへ潜り込んだ