(寒……っ! )

瑠衣への想いを自覚してから四年後。
中学三年生になった美咲は、校舎を出て身震いした。
冬の季節になり、空気の冷たさが肌にしみこんでいくようで、美咲は鞄の中のマフラーに手をやった。

駅前の広場まで来ると、大きな街路樹がツリーに見立てて飾りつけられている。
日暮れにはイルミネーションが点灯するらしく、クラスでも話題になっていた。
店のショーウィンドウも、赤や緑、金や白といったクリスマスカラーの装飾に彩られている。
ショーウィンドウの前を通りかかった時、ふとマネキンに目がいった。
飾られているのは、フワフワとして暖かそうな青いマフラーだった。

(このマフラー、瑠衣に似合いそう……)

美咲はぼんやりとマフラーを見つめ、幼なじみの姿を思い浮かべた。
四年経っても瑠衣への想いは冷めてはいないが、相変わらず告白はできずにいる。
けれど、それもここらで観念した方が良さそうだ。
数日前の出来事が美咲の頭をよぎる。

数日前の朝、瑠衣が他のクラスの可愛い女子に呼び出されているところを美咲は目撃し、気になってその日の放課後に瑠衣の後をこっそりと付けていた。
案の定瑠衣は告白をされ、断ったようだが、瑠衣の頬はこれまでに見たこともないほど赤く染まっていたのだ。
今まで恋バナなんてしたことがなかったが、瑠衣は恋愛に興味くらいはあるのだろう。
もしかしたら、好きな人だっているのかもしれない。
そんな不安が募り、今でも美咲の胸の辺りに漂っている。

(恋愛はタイミングが重要だし、今度のクリスマスの日がチャンスだよね……)

今年のクリスマスは放課後に瑠衣を誘って二人で過ごすのはどうだろう。

(……よしっ。今年のクリスマスで、絶対に告白するんだ!)

美咲は拳を握り締めて、そう意気込むのだった。

その日の夜、瑠衣は自宅のリビングで、テレビのイルミネーション特集を見ていた。
イルミネーションで彩られた街路樹は過ぎ行く人達を魅了していて、瑠衣もテレビから目が離せなくなっていた。

(これ、美咲が見たら絶対大袈裟に喜ぶだろうな……)

ふと浮かんだ言葉に、瑠衣自身が驚く。

(いやいやいや。何考えてんの、俺。何でここで美咲が出てくるんだよ)

自分に問いかけて、暴れ出した心を落ち着かせる。
鼓動が鳴り止むのを感じると、ほっと息をついた。

(忘れるって決めたのに、全然忘れられてないじゃん……)

今度はため息を溢し、テレビのリモコンに手を伸ばして画面を切る。

四年前、好きな人ができたと美咲に宣言され、内心もの凄く動揺していた。
好きな人が誰なのか問い詰めようとしたが、美咲に「ナイショ」と言われ、瑠衣は不覚にも一瞬ドキッとし、硬直してしまった。
あのイタズラな笑みを思い出すだけで、心臓がうるさいくらいに脈打つ。

正直、最初は自分じゃないのかと期待した。
瑠衣と美咲は幼い頃からずっと一緒にいるから。
瑠衣以外の特定の男子と関わる彼女の姿を、ほとんど見たことがなかったから。
そんな理由で、勝手に決めつけていた。
けれど、すぐにそれはないなと気づいた。
真っ直ぐで考えたことをすぐ行動に移す性格の美咲のことだ。
瑠衣のことを好きなら、あの日告白してきたはず。
ずっと美咲を見てきた瑠衣だからこそ、そう理解できてしまった。
美咲の隣にいられなくなったとき、俺は一体どうなってしまうのだろう――――。
なんて、最近瑠衣はふとしたときに考え込む。

本当は、美咲の手を引っ張るのも、笑顔にするのも、この先もずっと自分の役目だと思ってた。
しかしその役目も、もうすぐで終いなのかもしれない。
だから、美咲へのこの想いはずっと心の奥にしまっておくと決めた。
美咲は優しいから、瑠衣の想いに応えられないことを悩んでしまう。
美咲を苦しませたくない。
いつものように笑っていてほしい。
美咲が幸せになれるのなら、笑顔になれるのなら、それで充分だ。