「来てたけど。」

『そうですか。なら良かったです。』

「なんか用か?」

『いや、ちょっと気になっただけなんで。大丈夫です。』


どこか歯切れの悪い桜木を不思議に思いながらも、それ以上詮索することは気が引けた。

勝手に須崎はいつもひとりでいると思っていた。

友達がいたことに安心する自分と、それが桜木であることを複雑に思っている自分がいる。

そんなことを考えていたらいつの間にか桜木が立ち止まっていて、今度は俺が少し歩いてから気付く。



「どうした?」

『俺、強くなりたくて空手始めたんですけど…』

「あぁ。」

『身体だけデカくなっても、人って守れないんですね。』

「どうしてん急に。」


顧問として桜木のことはずっと見てきたけれど、こんなに弱気な姿を見るのは初めてだった。

いつも明るく、常に周囲に目を向けて後輩を引っ張っているのが桜木だ。



『何もできなさすぎてつらいです。』


その言葉と須崎の姿が繋がった。