授業が終わるまでには帰さなければいけない。
須崎が戻らなければきっと新田が保健室へ様子を見に行くはずだ。
だけど須崎は随分前に保健室を出ている。
その空白の時間を、絶対に気付かれてはいけない。
腕の中の須崎の呼吸が少しずつ落ち着いていくのを感じながら、頭では冷静にそんなことを考えていた。
『菊池先生?』
「うん。」
『私…帰らないとダメかな…。』
「え?」
不意に呟かれた言葉に鼓動が跳ねた。
冷静な思考なんて全部吹き飛ばされていく。
『私が帰らなかったら、家はどうなるんだろう…。』
「帰りたくないんか。」
返事の代わりに、須崎がぎゅっと俺にしがみつく。
答えを求めることはあまりにも酷だった。
帰りたくないと言われても俺は帰すしかない。
須崎が帰らなければ、須崎の家族はきっと壊れてしまう。
『ごめんなさい。なんでもないです。』
結局なかったことにした須崎の言葉を、俺はただ黙って受け入れるしかなかった。



