「大丈夫か?」
『はい。』
聞き逃してしまいそうな程小さな返事は、とても大丈夫には聞こえない。
少し前に職員室で竹石先生と新田が話していたことを思い出す。
夜中に起きてくる祖母。
ほとんど帰ってこない父親。
今そこに立っている須崎の足場はあまりにも不安定だ。
「もう戻るんか。この授業中くらい休んでたらええのに。」
今度は返事が返ってこなかった。
ただそこに立ち尽くして、歩き出す気配もない。
考えるよりも先に、身体が動いていた。
「ちょっと来い。」
『えっ?』
微妙に保たれていた距離を詰めて須崎の腕を掴むと、誰かが来てしまう前にその場を離れた。
一気に元部室まで歩いて2人きりの空間になると、ようやく正面から向き合う。
その頬に流れる涙を見た瞬間、先に胸に飛び込んできたのは須崎だった。
『菊池先生…』
「大丈夫。ここにおるから。」
そっと抱きしめて髪をなでると、須崎はしばらく腕の中で静かに泣き続けていた。



