『やっぱりさっき、無理矢理にでも引き留めておくんだった。変に目立つようなことになっちゃったね…。』


心底後悔しているように里谷先生が腕を組んで俯く。

先程の喧騒が耳に残っている。



「深夜におばあさんが起きてくるそうです。」

『そう…それでよく眠れてないのかもね。』


それっきり、保健室に沈黙が流れた。

俺も里谷先生も、このもどかしさを言葉にすることができない。

目の前でこんなにも苦しんでいる生徒がいるのに、救える術が何もなくて。



『ほら先生、授業戻らないと。』

「あぁ、そうですね。後お願いします。」


何もできないもどかしさを抱えたまま、もう1度須崎の顔を見て保健室を出る。



「うわっ!」


が、ドアノブに手を伸ばしたところで先に外からドアが開かれた。



『菊池先生!もっと静かに入ってきてください!』

『あ、あぁ…すいません。』


入ってきたのは菊池先生だった。


なぜここに来たのか、それもこんなに慌てて。

その答えを知るのが、目の当たりにするのが怖くて逃げるように保健室を出た。