赴任したばかりの頃、授業中に騒ぐ生徒たちに菊池先生がうるさいと怒鳴り込んで来たときには縮み上がった。
さすがにもうそこまで生徒に好き放題されることはなくなったが、まだまだ気を引き締めなければならない。
そんなことを考えていると、カランという微かな音に意識が逸れた。
「大丈夫か?」
生徒がペンを落とした音だ。
落とし主を探していると直後にガタンと大きな音が鳴り、須崎が机に突っ伏して倒れていた。
「須崎!」
『大丈夫?』
『え、なに?怖い。』
一瞬にしてざわめいた教室の中でも須崎は起き上がらず、狭い通路を須崎の元まで駆けた。
机の下にペンが転がっている。
「須崎?須崎聞こえるか?」
肩を軽くたたいてみても反応がない。
教室の喧騒がさらに広がる。
黙ってくれ。頼むから。
「保健室まで連れて行くから、自習しといてくれ。」
『先生かっこいーい!』
『須崎さんいいなー。』
煩わしい声の一切を振り切るように須崎を肩に乗せ、そのまま背負って教室を出た。