『廊下は走るなって言ってんのに。』


先輩を見送った新田先生が視線を私に移して、なぜかふっと微笑んだ。

確かに綺麗な顔だけど…と思ってなんとなく胸が騒ぐのをごまかす。



『一緒に食べてたのか。』

「はい。」

『桜木はいいよなぁ。あいつはいい奴だ。』

「はぁ…。」


何が言いたいのか分からなくて、曖昧に返す。

ふと新田先生が微笑みを隠して、すっと私を見下ろした。

なんとなく居心地の悪さを感じて、一歩後ずさる。



『桜木なら、2人で弁当食べてても何も言われないしな。』

「え…?」

『新田先生、ちょっといいですか。』

『はい。行きます。』


何か言おうとした新田先生が別の先生に呼ばれて、その先は聞けないまま1人になった。


先輩となら2人で食べていても何も言われない…。

私が2人でお弁当を食べる人って、1人しかいない。


新田先生は私が菊池先生と2人で過ごしていることを知っている…?

菊池先生とお弁当を食べていたら、何か言われてしまうのだろうか。