「自分は体育の担当なのでそこまで接する機会は多くないのですが、自分が見る限りでは…大丈夫だと思います。」

『ならいいんですけど…。1年の頃は慣れない生活のせいで不安定になってしまって、竹石先生にも随分迷惑をかけてしまったものですから、心配で。』


慣れない生活。不安定。

俺は何も知らずに、心配する竹石先生に深く関わるのは良くないなどと言ってしまっていたのか。


須崎は俺が知らない方が嬉しいなんて言っている場合ではない。

竹石先生が、里谷先生が、新田が、必死で手を差し伸べようとしていた理由がやっと分かった。



「あの、今晩のようなことはよくあるのでしょうか。」

『いえ、初めてです。これまでは徘徊とかはなかったんですけど…。』

「失礼ですが、おばあさまは…。」

『認知症なんです。』


認知症、徘徊、介護。

それは実家を出て長らく独り暮らしをしている俺からは遠すぎるもので、家族が抱える苦労がどれだけのものなのか想像もつかなかった。


須崎がいる環境は、俺が思っていたよりもずっと過酷で、孤独だった。