「幸せになろう。」
『え…?』
「幸せにする。」
俺の横顔をまっすぐに見つめていることに気付きながら、ひたすら前だけを見ていた。
エゴでしかなくても、それだけが俺たちにできることだ。
『菊池先生。そういうことはもっとちゃんと顔を見て言ってくださいよ。』
「先生。」
『あ、えと…渉さん?』
「そういうことはちゃんと顔を見て言え。」
ふっと空気が柔らかくなったのが分かった。
沢山の言葉はいらない。
この空気と、隣で感じる存在と、ささやかなやりとり。
2人の日々が始まった瞬間だった。
『意外と綺麗にしてるんですね…って、ゴミ袋だらけだけど。』
「今日掃除した。ゴミ出しはちゃんと守らなあかんやろ。」
『なんか、ちゃんとしてるのかしてないのか…。』
ホテルを引き上げてマンションに戻ると、須崎は物珍しそうに部屋を眺めた。
ちゃんと掃除はしたつもりだが、不安と緊張感は拭いきれない。



