【Wataru Side】


夕日が遠くの空に沈んでいくのを見ながら、長かった1日を思う。

新田の言葉をひたすら頭の中で繰り返しながら、鳴らないスマホを握りしめる。


夜になれば、須崎から連絡がくるのだろうか。

新田はああ言ったけれど、須崎が今誰の傍にいたいかは、須崎にしか分からない。


やっぱり会えないかもしれない。

会いたいと思う気持ちと同じだけ、そんな不安も感じていた。


不意に吹き抜けた風に身体が冷えて、窓を閉めた。

1日かけて片付けた部屋を見渡して、ふっと溜め息をつく。


ここに須崎がいる光景を思い浮かべられない。


♪♪♪~


静寂を破るように流れた着信音に鼓動が跳ねる。

画面に並ぶ数字の羅列。

だけど新田のものではないその番号。



「はい。」

『菊池先生…?』


恐る恐るスマホを当てた耳にその声が聞こえた瞬間、空白の期間が一瞬で埋まったような感覚になった。



「須崎…。」


忘れようとしても忘れられた日など1日もなかった、ただひとりの大切な人。