「…そうか。」
『ずっと心詠のことが好きで、でも心詠はずっと菊池先生のことが好きで…。』
心詠、と呼ぶ度に滲む愛情に心を掴まれる。
俺が1度も呼んだことがない名前。
確かにバカだなと思った。
『大阪へ行くって言ったんです。』
「え?」
『大阪の大学へ行くって。行って菊池先生を探すって聞かなくて。』
さすがに想像していなかった言葉にはっきりと動揺した。
俺の知らない須崎の姿を、新田はずっと見てきた。
そして、傍にいた。
『大事な将来だから1度菊池先生と会ってから決めろって言ったけど、電話番号も何もかも変わって居所も分からなくなってるなんて思いませんでしたよ。』
「それは…ほんまに悪かったと思ってる。」
『どれだけ探しても見つからないから、もういいかなって。そんなに俺たちのこと忘れたいなら、何も遠慮せず心詠の傍にいさせてもらいますよって。思ってたんですけど…』
忘れたいわけじゃなかった。
ただ逃げたいだけだった。
無理に離れても、何ひとつ須崎のことを忘れられなかった自分から。



