「近くってどこまで。」
『えーっと、なんか小さいパン屋さんがあります。』
「ほんまに近いやんけ。」
『そうなんですか?あとちょっとが辿り着けないなってずっと迷ってたんです。』
なんだ、ただ道に迷ってかけてきただけか。
気遣いだと思ったことをひとり訂正して、自宅を出た。
「新田。」
スマホ片手にパン屋の前を右往左往していたその背中に声をかける。
振り返ったその顔は、2年振りに見ても嫌になる程整ったままで。
丸かった眼鏡が黒縁の眼鏡に変わっているくらいの変化しか見られないことに、自分だけが月日を重ねたような錯覚を起こす。
『お久しぶりです。』
「さっきも聞いたわ。」
電話では意識して明るく振る舞っていたのだと分かるくらい、その表情は緊張に満ちていた。
どれだけの想いと、どんな想いを抱えて俺に会いに来たのか、計り知れなかった。
「飯食ったんか。」
『あぁ、はい。今パン買いました。安くしてもらいました。』
「そうか。男前は得やな。」
2人ともふっと笑って、少しだけ緊張が解けた。



