「ここ、湯あるけど。」

『え?』

「去年まで空手部が使ってた部室。今でも俺が使うから勝手にケトル置いてる。」

『いいんですか…?』

「まぁ。」


鍵を開けてドアを開くと、須崎はおとなしく後をついてきた。

埃っぽくて狭い部室の中を不思議そうに見回して、取り残されていた小さな丸椅子をさっと手ではらった。



「椅子、こっち座れよ。汚いから。」

『大丈夫です。』


俺以外の人間がここに入ることなどなかったから、放置されていた丸椅子にも埃がたまっていただろう。

須崎はとくに気にした様子もなくそこに座るとカバンの中からカップスープを取り出した。

ペットボトルに入れてきた水をケトルの中に移してお湯を沸かす間、須崎は黙ってスープのラベルを読んでいる。


自分で言うことではないが、俺は生徒から人気がある教師ではない。

女子生徒となると尚更だ。

俺に話しかけてくる者などまずいないし、用があって声をかけるとあからさまに嫌な顔をされるのがお決まりだ。