『落ち着きましょうよ。ね?』


原先生に掴みかからんばかりの俺を同僚が椅子に座らせ、肩を手で抑える。

置いているだけのように見せかけて、とても強い力だった。



「すいません。」


その強さに冷静さを取り戻し謝ったけれど、原先生は何も言わなかった。


落ち着いて考えれば分かる。

原先生が気に入らないのは須崎ではなく新田だということを。

女子生徒から人気のある新田を原先生は以前から敬遠していた。


須崎だからですか?と聞いた新田の声がまたよみがえる。

今もう1度、気にかけるのは須崎だからかと聞かれたら上手くはぐらかせる自信がなかった。



『大丈夫かな。』


1時間目が終わる頃、母親に付き添われて帰っていく須崎を職員室の窓から見ていると、竹石先生が隣に立った。

竹石先生も同じように須崎の背中を見ている。


その姿が見えなくなるまで、ただ黙って見送った。


やっぱり何ひとつしてやれない。

ずっと一緒にいたいと言った須崎の消え入りそうな声が、今もまだ頭に残っていた。