『おい。』


腕の中の須崎を思わずぎゅっと抱きしめかけたとき、背後から静寂をかき消す声と足音が聞こえた。



『菊池先生、里谷先生になるべく早く来るよう連絡してください。俺は須崎を保健室へ連れて行きます。』

『須崎、お前…』


須崎を抱えて立ち上がった俺を見る菊池先生の表情に、きっと俺も今こんな顔をしているんだろうなと思った。

心配で心配でたまらない。

なのに何もできない自分のふがいなさと無力さに苛立ち、打ちのめされている。



『菊池先生…』


菊池先生が電話をかける為に職員室へ戻った後、腕の中の須崎が小さな声でその名前を呼んだ。


それは、俺が初めて聞いた須崎の助けを求める声のように思えた。


須崎を支えながら保健室まで歩く途中、頭にはずっとその声が繰り返し響いていた。

抵抗することを諦めたのかただ単に力が抜けたのか、須崎は黙ったままだ。


こんな風に大人しく俺の腕の中にいても、今須崎が求めているのは俺じゃない。