『須崎さん。』


教室へ戻る途中で桜木先輩に出会った。

先輩に会うのは、先日祖父のお見舞いに行った日以来だった。

桜木先輩は同じ病院に入院しているおじいさんのお見舞いによく行っているみたいだ。



『この前…大変だったな。』

「はい。」


先輩が少し言い淀んだ"この前"とは、祖父が体調を崩したという連絡を受けて病院へ駆けつけた日のことだ。

ベッドに横たわる祖父はとても小さくて、生きていく希望や生きている意味さえ失ったような目が悲しかった。

少し熱があることが心配で、母はそれ以来祖父の病院にいる時間が長くなった。



『じいちゃん大丈夫か?』

「はい。熱も下がってきてるみたいなので、大丈夫だと思います。」

『そっか。なら良かった。』


きっとずっと心配してくれていたのだろう。

あの日は焦っていたこともあって上手く話すことができなかったから。


先輩の優しさに触れて、不安でずっと張り詰めていた気持ちが少し和らいだ気がした。