片岡楓音って、さすがに【か】の文字が多すぎて、なんだかしっくりこないのだ。



「楓音ちゃんおかえり!入学式、お疲れ様。今日は一緒に行けなくてごめんね」


「いえっ、それは全然大丈夫です!」



シンジさんはとても優しい人で、いい人オーラが全面に出ている。



「さてと、そろそろ時間だし空港に向かおうか」


「そうね。さっ、楓音ちゃんも急いで服着替えてきて」


「えっ?なんで私……?新婚旅行に行くのは、お母さんたちでしょ?」



すると、この夫婦は互いの顔を見合わせ、「あははっ」と笑い声をあげた。



……え、わたし、なにかおかしなこと言った?



「も~楓音ちゃんってば、とぼけないでよ。三人で旅行に行くって話したじゃない」


「うんうん。楓音ちゃんの荷物もキャリーケースに詰めてあるから大丈夫だよ」


「………はぁぁぁぁぁああぁぁ!?」



ちょっ、ちょっと待って……!

私の聞き間違いじゃなかったら、いま三人で行くって言わなかった!?



「もう時間ないんだから、早く着替えてきてよ」


「ちょ、ちょっと待ってお母さん!私、今日入学式終えたばっかなんだよ?旅行なんて行けるわけないじゃん……!」



むりむり!絶対むり!

せっかく高校生になれたのに!



「ちょっとくらい休んでも大丈夫よ。それに楓音ちゃんの分のチケットも取ってあるし、一緒に楽しい旅行へ行きましょ?」


「そ、そんなこと急に言われても……」


「美味しいものもいっぱい食べれるし、いっぱい楽しい遊びだってあるんだよ?」



美味しいもの…楽しい遊び……。



二人の巧みな話術に嵌められ、徐々に気持ちが揺らぎ始める。