この指輪には色んな意味がこもっていると思

う。夫婦の証。三人が家族だという約束。母

さんと先生の友情。

「オレと先生の約束の印。オレ達もいつも一

緒ですから。」

先生の小さな手に母さんの指輪を乗せて、手

を繋ぐ。

「そうね。」

また一つ涙を流して、手を握り返してくれ

た。

「気を付けて帰れよ。」

早織ちゃんと一緒に施設を出て、龍也のカフ

ェに向かおうとしたとき。

「蓮人さん。ありがとうございました。」

「なにが?」

早織ちゃんはオレに、深々と頭を下げてお礼

を言った。オレ、感謝されるようなこと、し

てないと思うんだけど。

「お母さんを許してくれて。私を解放してく

れて。」

早織ちゃんもきっと、苦しかっただろうな。

あの手紙を読んでからずっと、悩んだのだろ

う。

「お母さん、とは呼べないけど。先生がオレ

の母親代わりとして、ずっと育ててくれたこ

とに違いはないから。」

たとえ先生が、オレを嫌いで母さんに預けた

んだとしても、オレは全部受け止めると決め

ていた。オレが今、家族と呼べるのは、先生

だけなんだから。

「また先生に会いに来るよ。これからはオレ

が先生を守るから。」

「私も一緒ですよ。お母さんを支えてみせま

す。」

力強く宣言した早織ちゃんは、初めてオレに

笑顔を見せて、帰っていった。

「お母さん…。って…呼べそうにないわ…先

生。」

いざ呼んでみると、心がくすぐったくて。だ

けど、冷たい風さえ感じないくらい胸の奥ま

で温かかった。