ああれ、ここはどこ。
きら、起きて。

なに?まだ眠いよ。
起きて。もう遅れる。

まだ、ネコ来てないよ。
置いてけぼりにしたの。大丈夫よ。

いつまで待ってても、来ないし、あのときも、きらは置いてけぼりにしただけだよ。
そんないいわけ、ことが大きくなってからは通用しないの。

世の中の誰がいいわけなんかするの。きらはもう大人の国にいるとばっかり。
大人の国はまだよ。遠いわ。列車がすれ違うまで、もうちょっと待って。

だめだよ。列車がすれ違ってきたら、別の国だ。ワンダーランドに戻りたい。
だめ。あそこは決壊したの。下に落ちたわ。

きら。起きて。

ここは。列車の中だよ。
ポチャンと、水が滴っては上から足の裏と下に突き抜ける。

「ワンダーランド、そうよんでほしいな。」


思い出がきらのなかで弾ける。
なまめかしいチャンプードレス、かわいいと叫ぶアニータ、温度の中で燃えるようなダン。
列車の窓は、心の憔悴を引き換えに思い出を映しだして見せてくれる。きらはまだ幼少の頃の思い出にしがみついていた。

まだ見れる、車掌合図とともにシャットアウトされる窓は、仲良くなった汽笛係にきらと共にサービスをもらっていた。
ついで、スペルを使い頭のなかに戻し固める現実社会のリアルタイムでは、懐かしの絵画は散り、裂けていた。

ホストかい?
頭がいたくなって呻くと、きらの枕はきらをだきしめた。

きら、みつめすぎはだめだよ。
枕さん、きらはホストじゃない。
またそんなこと言って。きらは優しいから。いつでも物にセックスされる。
違うよ。空のこと、まだ悩んでるから。きっと嵐かな。怖いよ。でも、そんなこと言っても、見たいんだ。
賭け事は良くないよ。きら、見てる人がいるから空は美しいんだからね。
そんなこと言って、だよ。きらは、飛んでる人が美しいから、どこからでも見たいんだ。飽きない。
またまた。なにしたいんだか、将来有望だね。
携帯をいじると、いいよ。

きら、またボクだね。
なんだいケータイさん。

ここでの社会ルールを知ってるかい?
金持ちになって金や物は帰る。スポイトを信じる。スポイトとは、物や言葉から出てくる祈りの手ね。手が一杯になったら、お風呂。ここは清潔だからね。休むところなんだよ。悲しいことは、人に言い伝えること。子供でも、生んでもいいんだよ。きらは生まないの?
生みたくないよ。

まだわかってないね、ルールね。子供は、抱えて来るもの。赤ちゃんじゃ、ないよ、ここでは。
どういうことなの?
また後で、教えるね。
きらにとってはなんだろう。わからないな。
わかってるはずだよ、きら。あと、苦し紛れの言葉は相手を傷つけるからNG。いつも素直にね。優しい、人は誰かっていうと、建物の、上にいる人。わかったね。


あれ、と目を開ける。そういえば、目を開けた時に、ふとおもうのは、こっちに来てからだろうか。
なんだか慣れなくてむしゃくしゃする。


きらは落ちつかない、落ち着かないと、足元をふらつかせてベットからでた。

きら。見えた?
なに、お月さん。

廊下に出ると、列車の空気が変わる。隣が、ピンクのようだ。珍しい、ときらが悲しむ胃をつまむ。体が言うことを聞かない。

えーっと、あっちに、私の星が落ちたの。見に行ってくれない?
またなの。どうも、病気がちのこばかりだね。
また誉めちゃって。嬉しいわ。

誉める、上げる、落とす、苦しむ、苦しめる、誘う、チクりと指す、言い逃れる、悲しむ、与える、ヤキモキする、痛める、悲しめる、奪う、取り上げる、棄てる、投げる、刺す、刺される。

食べ物には困らなかった。美味しいと感じるものはなかったが、きらのなかで確実に生の生き物で、培って、自然的で、お金があれば、うろたえることがない、不動の物だった。

きらは世の中で、悪いことをして、違う土地に運ばれてきた子だ。宇宙トンネルを突っ込んで、死者の町へと飛んだ。意識の世界、それがきらの新しい住みかだった。

なにしろ、面白いものでも何でも、売ることや棄てることは許されない。
もとの住みか、そこではなにが規範だったのか、何がこれからの与えられる社会への規範なのか、きらはまだ知ろうともしないで、と、ただ闇雲に考えていた。

苦しんでるねえ。キミ、きらっていう子でしょ?いいねえ。キミの顔、いいねえ。

てんびょうがの襖を持つような、美しい男と金持ちが現れる。

とたんに、背筋が釣られているようだ。

きらの表情が強張る。


きら、起きて!!



















前が見えないよ。
落ち着かないな。
怖いな。
静かに休んでいたかったのにな。
怖いからここから出ていってみたいけど、すくんでいるのか脚が分からないよ。

ねえ。ジョーカー、怖いことに、お金で体を売り払っている人と、お金で体を買っている人がいるよ。
いいのかな。治安、良くないのかな。

ああ、あれはね、とんだスケコマシさ。何て言ったって、怖いからって体に刺青をした男さ。僕なら体に空針をさすなんて、考えられないね。

わかった。ネコ。あれはのぞきやだ。なんかの会話をしているね。

なんでショー、あれ、御主人様。なんだかおどけてます。綺麗な人に、男の人が、乗っかって、奇妙な形を作っています。芸術にのめり込んでいるのでしょうか。

違うさ、ネコ。あれはトーマスっていう、女の人への暴力だよ。痴漢行為を、やめられないんだ。

どういうことでしょう。ネコには分かりません。

見えないとりが飛んでいるよ



どういうことかなネコ、前が見えないのかな

ああれ、ネコは前が見えないとりは飛んでいないと、落ち着かないってのかな


違うさ


とりはね、翼をなくしたときから飛べるんだよ。








きら。!
なんだい、ようやく起きたよ。
きらは起きてない。早く変わりなさい。

きらは病気じゃないよ。分からせたいんだ。苦しんでたね。これで怖くない。

きら、これは物語です。見えているものだけを信じないで。

頭が痛くなったきらが、静かに目を細める。ただそれだけで感じられてきたのは、無数の痛薬のピリピリとした足元の刺激と、うすい空気のはぜる熱だけではなか
った。

流れる汗の解釈と言えば、血液に流れ込んだ無意識の恐怖だろうか。苦しんだ末に見つかる自分の幻影の姿がチラチラとみぞおちを躍り回る苦痛。焼けた膚に、目に残る誰かの眼の輝きとおぞましさの黒さ。

きらは、また嫌な夢を視るなと、そんな毎日にほくそえんで、水ジュースをちびっとだけのんでベットに腰を掛けた。

ジョーカー。あの、遠くからきらたちをみていた、ネコと、女の子と、下の人たちはなんなんだろう。
さあ。こっちには分からないね。
ああ見えて、噂好きなんじゃないの。こっちの列車に、いたずらしてるみたいだよ。やだね。
やだぁね。なんだろうね。

まあ、また今夜はこのボク、ジョーカーが一緒さ。一緒にいい夢を見ようよ。、、、



きらが、ストンと落とされたカードで切れた目の前の空気を吸い込んで、また別世界へと飛んだ。

また明日。、、、


きらはいつもそういう。なんだか寂しいね。可愛いよ、きら。何年も待ったんだから、楽しませてよ。暴れたいな。

きら、こういってるんだから、チャンスよ。だめだよ、ワガママ言ったら。

損はしないさ。感じるだけさ。寂しいよ、あっちは。

きらが部屋の壁たちが騒ぐころだなあと、それを雑音のように感じ始めたと同時に、二の腕からざわっとした音と乾いた熱がただよってくる。

きらはまた眼を閉じた。