結局紗那は約束していた打ち合わせを断り、誠との食事へ向かった。

用意されていた店は完全個室の和食料理屋。かなり高級そうだ。

「やっと来たか。来なければ首にするところだったよ」
誠は平気でこういう話をする。
本気なのか冗談なのか分からないがいつも目が笑っていない。
「まぁ、やめてもいいけど。今やめてもこの業界で活動できないようにするのは簡単だしね。」
こんな言葉も日常茶飯事で言われる。

でも、今の紗那はどんなことを言われても耐えるしかなかった。
この社長のこと以外は、仕事も充実してきたばかりで、自分自身が積み上げてきたことに誇りも持つことができていた。

「辞めませんよ」
そう言って誠に向かい愛想笑いをする自分に心の中で憤りすら感じながら、紗那は現実から離れたくてお酒を次々に口にした。