今日はクリスマスイブ。


 桃ちゃんは相変わらず、
 お仲間さんの愚痴ばかりこぼしている。


「あいつら、何やってんのよ。

 なんで一人も、
 一颯先輩の情報を見つけられないわけ?

 私がせっかく、
 あいつらに頼ってやったのに」


「いいよ、桃ちゃん。

 お仲間さんたちにお礼を言っておいてね。
 探してくれてありがとうって」


 私が微笑むと、
 「六花は優しいんだから」と
 頭を撫でてくれた桃ちゃん。


 その時、紫音くんが教室に入ってきた。


「六花の顔をまじまじ見るの、
 久々な気がする」


 そうだね。


 2か月前、
 紫音くんに「付き合えない」って
 お断りしてから、
 私もさりげなく避けていた。


 どんな顔をして、
 紫音くんに会っていいかわからなくて。


 それなのに目の前の紫音くんは、
 さわやかな笑顔で私を見つめてくれていた。


「俺さ、
 六花にクリスマスプレゼントを届けに来た」


「え?」


「はい、これ」


 紫音くんはそう言いながら、
 折りたたまれた1枚の紙を、
 笑顔で私に手渡してくれた。


 丁寧に開いてみる。


 え? 


 これって!


「桃ちゃんから聞いたよ。
 一颯先輩の居場所を探しているって。

 それなら、真っ先に俺を頼ってよ」


 その紙には、
 お兄ちゃんの新しい高校名と、
 寮の住所が書かれていた。


「紫音くん、なんでわかったの?
 お兄ちゃんの居場所」


「俺さ、練習試合とかするたびに、
 他校のバスケ部の知り合いが
 できちゃうんだよね。

 そのバスケ友達に片っ端から連絡したら、
 俺の高校にいるよ!って
 教えてくれた人がいてさ。

 でも、びっくりした。

 転校って言っても、
 近場だろうなって思っていたのに、
 まさか、県外にいるなんてさ、一颯先輩」


 あんなに知りたかった、
 お兄ちゃんの居場所。


 嬉しいはずなのに、
 見つかった瞬間に襲われた
 なんとも言えない怖さ。


「私……

 会いに行っていいのかな?

 お兄ちゃんのところに」



「え? 
 今更どうしたの?

 どうしても会いたいから、
 探していたんでしょ?」


「うん。

 でも……

 私が会いに行ったら、
 お兄ちゃんがもっと苦しんじゃうかも。

 いくらお兄ちゃんとは、
 血がつながっていないとはいえ、

 私まだ……

 お兄ちゃんのこと……

 兄としてしか見られないし」


 私の言葉に真っ先に反応したのは、
 紫音くんだった。


「六花それ、本音?」


「……うん」


「俺には、恋しているようにしか見えないけど、
 一颯先輩に」


 え? 


 私がお兄ちゃんに……

 恋をしている?



 桃ちゃんも、穏やかな口調で言った。


「だね。 私もそう思う」


 そんなことない。


 お兄ちゃんへの思いは、
 恋なんかじゃないよ。


 でも……

 お兄ちゃんのことを思い出すだけで、
 息苦しくなる理由は、わからないけど……


「六花はさ、怖いだけなんじゃないの?

 兄と妹の関係が壊れたら、
 これから先どうしようって」


「その気持ちも、ないとは言えないけど……」


「俺さ、
 六花は超ド級の天然だって思っているから。

 あれだけアピールしていた
 俺の思いにも気づかないくらいだしさ。

 でもまさか、
 六花自身の気持ちにも鈍感だとは
 思わなかったよ」


「確かに……
 紫音くんの気持ちには気づかなかったけど……

 それとこれとは、話が別だよ」


「じゃあさ、六花は良いわけ?

 六花の目の前で、
 一颯先輩が他の女の子を抱きしめていても、
 キスしていても」


 お兄ちゃんが……


 女の子を抱きしめる? 


 キスする?


 一瞬想像しただけで、体中から拒否反応。


 体がぶるっと震えた瞬間、
 気づいたら涙が頬を伝っていた。


「ほらね、六花は一颯先輩が好きなんだよ。
 妹としてじゃなく、一人の女の子として」


 紫音くんの言葉を理解し終えたとき、
 自分でもやっと気づいた。


「私……

 お兄ちゃんが……

 好き……」


 溢れる涙とともに口にした言葉。


 桃ちゃんが私の顔を覗き込みながら
 優しく微笑み、頭を撫でてくれた。


「六花、行っておいで。
 一颯先輩のところへ。

 ムササビみたいに、飛んで行っちゃいなよ」


「私……ムササビじゃないもん」


 涙を手で拭いながら、
 桃ちゃんにぷーと膨れてみる。


 そして私は、涙を流しながら心から笑った。