「七星くん……ごめんなさい……」


「赤城さん、それって……」


「七星くんとは、付き合えない」


 いろんな人に優しく微笑む、
 七星くんが好きだった。


 幼馴染のクルミちゃんにも優しいのは、
 七星くんの良いところだってわかっている。


 でも私は、
 七星くんが思っているよりも
 ずっとワガママ。


 クルミちゃんに微笑んでいる
 七星くんのことなんて、
 もう見たくないって思っちゃう。


 もし七星くんと付き合ったら、
 きっと私は平気なふりをし続けるんだ。


 クルミちゃんと仲良しだね。

 幼馴染だから、当たり前だよね。って。


 そんな、
 自分の気持ちを偽る恋なんてしたくない。


 だから私は、七星くんとは付き合えない。

 
「七星くんを思い出すと、
 隣にはいつも、
 とびきり笑顔のクルミちゃんがいるの。

 クルミちゃんに微笑んでいる
 七星くんの笑顔も、瞳に焼き付いている。

 私は……

 私だけを見てくれる人が……いい」


 
「俺だって、赤城さんだけを……」


「そんなことできないよ。

 七星くんは絶対に、
 私だけ見るなんてできない。

 だって……

 そこが七星くんの……いいところだから」


 なんで私、
 ずっと大好きだった七星くんに、
 こんな苦しそうな顔を
 させちゃっているんだろう。


 陽だまりみたいな七星くんの笑顔を
 いつも見ていたいのに、
 今にも泣きだしそうな顔を、
 させちゃっているんだろう。


 うつむきながら唇をかみしめている
 七星くんを見ていると、
 私が先に泣き出しそうなほど、
 心が締め付けられる。


 それでも私は、七星くんへの恋の火を、
 秋の風に吹き消してもらうことにした。


「七星くん……

 私のことを好きになってくれて……ありがとう

 でも……ごめんなさい」


 七星くんの耳にやっと届くくらいの声を
 絞り出すと、
 私は、肩を落とした男の子を一人残し、
 教室から出て行った。