「何を言っているの?

 それこそ六花が北海道に行っちゃったら、
 義兄さんが悲しむでしょ。 

 一颯だって」


「お父さんは、
 大げさなくらい泣いてくれるかもしれない。

 でもお兄ちゃんは違うよ。 

 私なんかと住みたくないって、
 ずっと思っている人だから」


「そんなことないよ~ 
 一颯はああ見えて……」


 必死に一颯をかばおうとしている
 春ちゃんの声を遮り、私は言い放った。


「お兄ちゃんは、
 子供の頃から私を恨んでいるよ。

 お母さんが亡くなったのは私のせいって」


 いつも笑顔の春ちゃんも、
 私の言葉を聞いて笑顔が消えた。


 そして、
 私を落ち着かせるように、
 穏やかな声で言った。


「それ、一颯に言われたの?」


 春ちゃんの問いに、コクリとうなずく。


「そうだったのね。
 六花も、辛い思抱えていたのね。

 気づいてあげられなくて、ごめんね。

 でも……
 一颯が六花のことを恨んでいるって思ったこと
 私は一度もないけどね」


「きっと、
 春ちゃんの前では隠しているだけだよ。

 お兄ちゃん、私のこと大嫌いだよ。

 ブスとかバカとか平気で言うし、
 私のことけなしてばっかり。

 赤城家の呪いとか言って、
 私にダサい格好させていたんだよ」


 私が一生懸命説明しても、
 春ちゃんには伝わってないみたい。


「一颯はね、
 すっごく六花のこと思っているよ。

 六花が辛いことがあると、
 私が六花に会いに行っているじゃない。

 それって、なんでだかわかる?」


 私もそれは不思議だった。


 なんで、春ちゃんに伝えてないのに、
 駆けつけてくれるんだろうって。


 お母さんが亡くなってから、お母さんの魂が
 春ちゃんの中に入ってくれたのかなって
 思った時もあったけど……


「それね、一颯が連絡をくれるのよ。
 六花のこと、助けてやってって」


 お兄ちゃんが?


 全く想像をしていなかったことに、
 私の頭の糸が絡んでぐしゃぐしゃになった。


「それに、これ」


 青い花の髪飾り?


 春ちゃんはその髪飾りを、
 私の髪に刺してくれた。


「これ、可愛いでしょ。

 さっきね、
 一颯が自転車をとばして届けに来たの。

 バイトが始まる前に買って、
 お昼休憩の時間に渡しに来たんだって」


 お兄ちゃん……


 バイトの人が急きょ休んだからって、
 朝ご飯食べずにバイトに行ったけど、
 あれって嘘だったんだ。


 この髪飾りを買うために、
 早く出かけたんだ。


 しかも、お昼休憩をつかって、
 わざわざ届けに来てくれるなんて。


 私のために、
 そこまでしてくれたことが嬉しくて、
 心がジーンと温かくなった。