「六花? どうした?」


 私の顔をのぞきこんだお兄ちゃんの表情。


 私を心配してくれているのが
 ヒシヒシと伝わってきて、
 素直に思っていることが口から出てしまった。


「あの時みたいに……

 むぎゅっとして欲しい……」


 七星くんがクルミちゃんのことを
 好きだって知っちゃったあの日みたいに、
 ギューって抱きしめて欲しい。


 そう思ってしまった。


 お兄ちゃんは下唇をかみしめ、
 何か考え込んでいる。


「ごめん、お兄ちゃん今の忘れて。

 私、もう大丈夫だから。
 洗濯物を取り込みに行ってくるね」


 私が部屋のドアに手を掛けようとした時、
 後ろからふわりと抱きしめられた。


「今日だけだからな。
 今だけ、特別だからな」


 上から目線のお兄ちゃんの言葉。


 いつもならイラッと来るのに、
 今はすごくあったかい言葉に感じる。 

 
 私はお兄ちゃんに抱きしめられたまま、
 七星くんへの思いを断ち切るために、
 声をあげてウワンウワン泣いた。