たとえば、こんな人生も

さゆ姉さんの所に泊まってから
ここしばらく
あの人の私に対する暴力は収まっていた


「……うーん」


傷をつくると姉さん達が悲しむし

もちろん私も
ないならないに越したことはないんだけど

……なんというか
後から一気にまとめてきそうで怖い

嵐の前の静けさだったら嫌だなー

そんな事を思いながら
仕事着に着替えて私は部屋の掃除に向かった



――…



「あら?ねぇ、ひなた」

「はい」

「あなた、さっき
奥の部屋にいなかった?」


廊下を歩いていると

途中の喫煙所でたばこを嗜んでいた
れいかさんに声をかけられる


「いいえ?」

「あら、じゃあ誰かしら
物音がしたのよ
今の時間、部屋に入るのはひなた以外
いないはずなんだけど…」


まだお店は開いてない

開店準備中

この時間は
私が部屋の清掃仕上げと最終チェックに向かう

だから

れいかさんの言う通り
私以外の人が部屋に入ることなんてほとんどない


「前みたいに猫が入り込んだのかしら」

「あ、ちょうど奥の部屋
今から掃除しに行くので」